France

【フランス進出の鍵】現地消費者の心をつかむための市場トレンド徹底解説

Ryunosuke Matsuo
2025-10-02
監修者:
株式会社Feux 代表
松尾 龍之介

2018年に青山学院大学文学部を卒業後、新卒で株式会社DYMに入社。Web事業部に配属され、ディレクターとしてお客様のウェブサイトやSNSなどの問題を解決するクライアントソリューション業務を担当。
その後、2019年に2社目のスタートアップAnique株式会社では、4人目のボードメンバーとして参画。漫画・アニメとNFTを組み合わせた事業で幅広い業務を経験。国内外のリアルイベントやリアル商品化企画も行ってきました。現在は、フランスのパリを拠点に、Web、アニメ、漫画、商品販売を組み合わせた事業を展開しています。
日本の渋谷に法人を構え、フランスに居住しながら活動。SEO対策とAIO対策を得意としています。

フランスはEUを代表する経済大国であり、パリを中心に世界的なブランド力を誇る一方、消費者行動やビジネス文化には日本とは大きな違いがあります。

日本のように「新商品を次々投入する」市場ではなく、「信頼できる定番を長く愛用する」傾向が強いのが特徴です。

そのため、日本企業にとってはコスト効率の良いビジネスモデルを構築できる魅力的な市場でもあります。

本記事では、フランス市場の基本情報から注目すべきトレンド、消費者インサイト、成功のポイントまでを徹底解説します。

フランスとはどんな国か

フランスはヨーロッパ西部に位置する、EUの中でも政治的・経済的に大きな存在感を持つ国です。国土は日本の約1.7倍にあたる54万9,000平方キロメートル、人口は約6,800万人。首都パリは「芸術とファッションの都」として知られ、世界中から観光客やビジネスパートナーが集まっている待ちです。

観光業はフランス経済の大黒柱であり、年間約1億人の外国人旅行者が訪れる「世界一の観光大国」としても有名。この観光資源の豊かさは、消費市場の多様性やブランド力の高さを支える大きな要因となっています。

そして経済的な側面に目を向けると、フランスは世界第7位の経済大国であり、EU内における主要プレーヤーです。一人当たりGDPは約47,000ドルと高水準を維持しており、製造業や自動車、航空宇宙、原子力、化学、食品など、幅広い分野で国際的な競争力を誇っています。

一方で、社会的な側面では多文化性がフランスの大きな特徴となっています。歴史的にケルト系、ラテン系、ゲルマン系の民族が混ざり合い、現代ではアフリカや中東からの移民も多く暮らしています。

人口の約12%は外国生まれであり、宗教もカトリックやイスラム教を中心に多様性が広がっているのが特徴。この多文化背景は消費行動にも反映され、フランスの消費者は単なる価格競争よりも「品質」「信頼」「文化的価値」を重視する傾向が強いのが特徴です。

また、環境保護意識が非常に高く、プラスチック袋の禁止や再生可能エネルギーの推進など、企業にはサステナブルな姿勢が求められています。

なぜ今、フランス市場を調査すべきなのか?

フランス市場を調査すべき理由のひとつは、その経済的な安定性と購買力の高さにあります。

世界第7位の経済規模を誇るフランスは、一人当たりGDPが約43,000ドルとEU諸国の中でも上位に位置しており、消費者の生活水準や購買力が高いことが特徴です。

特にパリを中心とした都市部では、ブランド志向が強く、質の高い商品やサービスへの投資を惜しまない層が厚く存在します。この観点から、価格競争に巻き込まれることなく、日本企業にとっては強みとも言える「品質」や「信頼性」で勝負できる環境が整っているといえます。

また、フランスはEUの主要メンバーとして、欧州市場全体への玄関口の役割を担っています。2019年に発効した日EU経済連携協定(EPA)により、関税の削減や輸入手続きの簡素化が進み、日本企業にとって進出のハードルはいままでより低くなりました。

フランスを拠点にヨーロッパ全域へ販路を広げることができるようになり、長期的な事業展開を見据えるうえで戦略的に大きなメリットを得られずはず。特に食品、化粧品、ファッションといった分野では、フランス市場での実績がそのままブランドの信頼度につながり、他国展開を後押しする効果も期待できるでしょう。

さらに注目すべきは、フランス独自の消費者文化です。日本のように新商品が頻繁に入れ替わる市場ではなく、フランスでは「定番を長く愛用する」傾向が強いのが特徴。一度消費者に受け入れられれば、長期間にわたり安定した売上を確保できる可能性が高く、先行投資を抑えながら継続的な収益モデルを築けます。

この「ロングセラーが評価される市場特性」は、持続的な成長を目指す日本企業にとって魅力的な要素といえるでしょう。

フランス市場で注目すべき3つの主要トレンド

フランス市場に進出するうえで、単に経済規模や人口データを把握するだけでは不十分です。

現地の消費者が今どんなことに関心を持ち、どの分野で変化が起きているのかを理解することが成功のカギになります。特にフランスでは、AIを国家レベルで推進する動き、日本文化とりわけ漫画・アニメの広がり、そして観光立国ならではのインバウンド需要と購買力の高さが目立ちます。

これらのトレンドを押さえることで、日本企業は自社の強みをどこに活かすべきかを見極めやすくなり、戦略的な参入の指針を得ることができるようになります。

国全体で取り組むAI戦略

フランスは今、国を挙げてAI(人工知能)の活用に力を入れています。実は2018年からすでにAIの国家戦略を打ち出しており、研究者の育成や新しい企業への支援を続けてきました。その後、2022年にはChatGPTの登場をきっかけに盛り上がった「生成AI」の普及に重点を置き、教育や産業への導入を後押ししています。

そして2025年2月には3回目となる新しいAI戦略を発表。フランスをAIの先進国にすることを明確に打ち出しました。

この戦略の中では、AI開発に欠かせない大規模なデータセンターを整備するための土地や電力を優先的に確保すること、AI教育や研究に投資して優秀な人材を集めること、さらには革新的なAI企業を支援するために公共事業への参加条件を緩和することなどが盛り込まれています。要するに研究から事業化までを国が後押しする、体制が整えられているのです。

企業の視点から見ると、これは大きなチャンスにつながります。例えば、日本企業がフランスの研究機関やスタートアップと協力すれば、新しいAIサービスを共同開発する可能性があります。また、国がAI関連の環境を整備しているため、参入企業は初期の負担を軽くしながら事業を広げやすくなります。

フランスは環境意識が高い国でもあるため、AIを省エネや効率化に活かす流れが強まっています。つまり、AIは単なる最新技術ではなく「社会や暮らしをより良くする仕組み」として受け入れられつつあるのです。これは、教育、医療、交通、エネルギーなど幅広い分野に新しい市場が生まれることを意味します。

漫画やアニメの人気がより高まっている

フランスは、日本文化が最も浸透している国のひとつと言われるほど、漫画やアニメの人気が高い市場です。

視聴覚・デジタル通信規制局アルコムが公表した最新レポートによると、2022年に3億8,100万ユーロに達した漫画市場の売上は、2024年には3億900万ユーロへとやや減少しました。

しかし、出版市場全体に占めるシェアは2019年の5%から2024年には11%へと倍増しており、漫画が確実に読者層を広げていることがわかります。特に40歳未満の男性を中心に人気が根強く、回答者の23%が「過去12カ月で読んだ本」として漫画を挙げている点は注目に値します。

アニメ市場も活況を呈しています。調査では回答者の38%が1年以内に少なくとも1回アニメを視聴したと答え、そのうち66%が「週1回以上視聴している」と回答。年間の平均支出額は142ユーロで、その多くがNetflixやAmazon Primeなどの定額動画配信サービスに充てられています。特にCrunchyrollといった日本アニメ専門のプラットフォームも認知度を伸ばしており、利用者層の拡大が進んでいます。

こうしたデータから読み取れるのは、フランス市場では一時的な流行ではなく、漫画やアニメが「日常的な文化」として定着しつつあるということです。

出版市場での存在感拡大やアニメ視聴の習慣化は、関連グッズやイベント市場の成長も期待させます。日本企業にとっては、現地パートナーとの出版・配信連携や、キャラクターを活かした商品展開など、多様なビジネスチャンスが広がっているといえるでしょう。

インバウンド旅行者による購買力

フランスは、世界一の観光大国として知られ、2024年のインバウンド旅行者数はついに1億人を突破しました。

7月から9月にかけて開催されたパリ・オリンピックの効果もあり、前年比で2%増加。国連世界観光機関(UNWTO)のデータによれば、世界全体の海外旅行者数は約14億人とコロナ前の水準に回復しており、その中でもフランスとスペインは過去最多を記録しました。特に旅行者数では、フランスがライバルのスペインを上回り、観光大国としての地位を改めて証明したといえます。

しかし、旅行者の支出額という点では課題も残ります。スペインの観光収入が約1,260億ユーロ(約20.4兆円)に達したのに対し、フランスは約710億ユーロ(約11.5兆円)と差をつけられています。これは、観光客1人あたりの平均支出がスペインに比べて低いことが要因とされており、フランス政府も「滞在期間を長くし、より多く消費してもらう工夫が必要」と課題を認識しています。

ここから見えてくるのは、フランス市場では「観光そのものの規模は世界最大級だが、消費行動の深掘りがこれから」という現状です。

観光客が滞在中にどんな商品やサービスにお金を使うかを工夫することで、さらなる市場拡大が可能になります。日本企業にとっては、この「消費の伸びしろ」が大きなビジネスチャンスとなるでしょう。特に、日本食レストランやアニメ・キャラクター関連商品、高品質な日用品など、旅行者が「フランスで買いたい」と思える商品を提供すれば、現地消費を取り込む可能性が広がります。

観光客の数が多いということは、それだけ消費者接点の機会も豊富にあるということです。フランスに進出する企業は、この膨大なインバウンド需要を意識し、観光と消費を結びつける戦略を取ることで、より大きな成果を得られるでしょう。

調査から見えた!フランス消費者の意外なインサイト

フランス市場の特徴を知るうえで驚かされるのは、日本とは大きく異なる「新商品」に対する姿勢です。

日本では、パン屋やスーパーに行けば毎月のように新しい商品が並び、消費者は常に新しさを追い求めています。一方でフランスでは、老舗のパン屋が10年以上ほとんど変わらないラインナップを続けても、多くの顧客が飽きずに通い続けます。ここから読み取れるのは、フランスの消費者は「定番の商品を長く愛用する」という価値観を強く持っているということです。

この傾向は食品に限らず、コスメや日用品、ファッションなど幅広い分野で共通しています。つまり、フランスでは常に新商品を投入するよりも、一度市場に受け入れられた商品を丁寧に育てていくことが重要になるのです。

新しさよりも「信頼性」や「品質の安定感」が購買の決め手になるため、企業にとっては広告や頻繁な商品改良にかけるコストを抑えながら、安定した売上を期待できる環境といえます。

さらに、パリなどで販売実績を築ければ、それ自体がブランドの信頼を示すステータスとなり、アジアや中東市場への進出にも有利に働きます。特に富裕層は「欧州で人気のあるブランド」を高く評価する傾向があるため、フランスでの成功はグローバルな広がりにつながるのです。

フランスにおける日本ブランドの成功事例

フランス市場の特徴を理解し、自社の強みを現地に合わせて発揮できた日本ブランドは確かな成果を上げています。その代表例として挙げられるのが、無印良品とユニクロです。

まず無印良品(Muji)は、シンプルかつ機能的なデザインでフランスの消費者の心をつかみました。日用品から家具、衣料品まで幅広い商品を扱う同社は、派手さを排した「引き算のデザイン」で生活空間を心地よく整えるスタイルを提案。

広く開放的な店舗設計や使いやすいウェブサイトも、フランス人のライフスタイルにマッチしました。とくに都市部の消費者は、無駄を省いたミニマルな美意識を評価し、無印良品を「クリーンで効率的な生活の象徴」として受け入れています。結果として、無印良品は単なる小売ブランドにとどまらず、フランスでの暮らし方やインテリアのスタンダードを形作る存在になりつつあります。

一方でユニクロ(Uniqlo)は、「高品質でベーシックな服を手頃な価格で提供する」という戦略で成功を収めました。パリの高級エリアに旗艦店を構えることで、単なる低価格ブランドではなく「日常を豊かにするファッション」として位置づけを強化。

「ライフウェア」というコンセプトは、快適さや耐久性を重視しつつ、シンプルながら洗練されたデザインを求めるフランスの消費者に響きました。トレンドに左右されないベーシックアイテムは、フランスの「長く愛用する文化」に合致しており、リピーターを獲得しやすい構造を作り出しています。

この過去からの事例から読み取れるのは、日本ブランドがフランス市場で成功するためには「奇抜さ」よりも「信頼性・シンプルさ・長期的な価値」が重要だという点です。

無印良品もユニクロも、現地に合わせた店舗戦略やブランディングを行いながら、日本独自の強みである品質の高さと細やかな配慮を前面に打ち出しました。その結果、フランスの消費者に「自分たちのライフスタイルを豊かにする存在」と認識され、長く支持を集めているのです。

つまり、短期的な流行を追うのではなく、定番として根付く商品やサービスを提供することが、フランス市場での成功の近道であるといえるでしょう。

まとめ

フランス市場を理解するうえで最も重要なのは、「新しさよりも信頼される定番を重視する」という消費文化です。日本では新商品を次々に投入して注目を集める手法が主流ですが、フランスでは一度受け入れられた商品が長く愛され続ける傾向が強く見られます。

老舗のパン屋が10年以上同じ商品を提供し続けても顧客が途切れないように、消費者は“変わらない安心感”に価値を見出しているのです。

この特性は、参入する日本の企業にとっても大きなメリットとなります。頻繁に広告費や開発コストをかけなくても、商品そのものの完成度が高ければ長期にわたり売れ続ける可能性があるからです。つまり、短期的な流行を狙うよりも、「時間をかけて育て、信頼を積み重ねる商品やサービス」を提供する方が成功への近道となります。

フランス進出を考える日本企業にとって、この“定番文化”を理解することこそが最大のヒントです。

華やかなプロモーションよりも誠実な品質、派手な入れ替えよりも一貫した価値。フランス市場で成果を上げるためには、この本質を押さえた戦略を立てることが不可欠なのです。

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